京都の手描き友禅 1%の現状 5月/皐月

  • 志染庵店主のコラム

先日京都へ行って参り、職人さんとお話しする機会を頂き、現在の京都での手描き友禅の職人の現状をお聞きしたので私の感想と現状をコラムにさせて頂きます。

 

①京都の職人の減少

ここ数年で着物の職人の数が減少していっている話は聞いておりましたが、感染症の影響もありなおさら友禅の職人が減り、2023年現在手描き友禅の振袖が作られているのは、全体の1%になってしまったという事です。100枚の振袖が作られれば1枚しかないという事ですね。

私が25年前京都で着物屋として勤めていた頃は、バブルもはじけ景気が悪くなる時ではありましたが、まだまだ作られていましたし、着物問屋にいけば数多くの振袖が数え切れない位在庫がありました。しかし、現在では手描き友禅の振袖の在庫は持たず、全て注文からの染めだしに入る形になってしまいました。つらい状況ですが、寂しいお話しです。

 

②京友禅競技会

京都では、「京友禅競技会」という名の会があります。その時に向けて京都の染屋さんが「振袖」・「訪問着」「留袖」等を作り、発表する会です。その会に最近では、手描き友禅の振袖を発表する会社が少なくなっているそうです。何故かと問いかけましたら、「振袖を一枚作るのには、大変コストがかかり競技会の為だけに一枚作るリスクは追えない」という事です。一昔前は染屋が力を入れて一生懸命、賞を取る為に頑張っていたらしいのですが今ではそこまで体力のある会社が無いのが現状です。

 

③着物のレンタルが通常となってしまった現在

世の中が、着物という物はレンタルという意識が強くなってきて、礼装物の着物全般は所有しない世の中になってしまい、現在では弊社の様な呉服屋さんが減り、レンタル屋さんが多い時代になって来たという背景もあります。染屋の方も、職人の減少からインクジェット振袖が主流になり、今では、インクジェット振袖も「京友禅」の伝統工芸シールが張られる様になりました。インクジェット振袖が悪いと言っているのではありません。時代と共に作る工程が変わって行く事は仕方の無い事ですが、着物を作る技術には日本の良い技術がたくさんあります。その職人の技術を保ちながら、現代に残す様に出来なかったのかと思います。

本当に残念でなりません。

 

④手描き友禅はなぜ高いのか

京都府・石川県・東京都・新潟県と手描き友禅を作っている地域は、この4地域になります。

この4地域の中でも、京都府・東京都(江戸)・新潟県は、分業で仕事をする事が多いのですが、石川県の着物は全て作家物となり、1人仕事になります。石川県のみ「加賀友禅」という名があり、他の3地域とは異なります。(このお話しは、又別のコラムで詳しく)

特に京都は、着物の分業で栄えた町でもあり、「図案」「型」「染」「手挿し」「刺繍」「水洗」「蒸」等仕事が分かれています。全てこの一つの作業の職人がいます。京都はこの分業が主流です。今でも少ないながら続いています。

一反の反物が、それぞれの職人の手に渡り一枚の着物に染め上げられてきますので、値段が高くなる事は仕方の無い事かと思います。

確かに、現在ではインクジェットの技術により低コストで作れる事は可能です。そして人の手に渡らない分安く出来るのは、現在の物作りの主流かと思います。

しかし、先人の日本人が考えた製作工程は、「物作り日本」の大事な部分かと思います。

本当に難しい話です。高いのは、一枚振袖を作成するのに人の手に渡るのが多いから仕方無いのですが、レンタルが主流な分安価で作れるインクジェットで良いとしている部分も業界全体である傾向です。

 

⑤手描き友禅と型染の違い

「手描き友禅」は、読んで字の如く手で柄の部分に筆で挿していく技法。

「型染」は、型の上に染料を置き擦ってしく技法。

一昔前の振袖は、板場という場所がありリーズナブルで作られる振袖は、全て型染でした。

今でも、型染の技法を守っている染屋もあります。

手描きの作業が無い分、リーズナブルに作れるのが特長です。

しかし、リーズナブルと言え職人が型を起こす作業や、染料の具合等様々な目利きが必要なので、インクジェットとは異なり、非常に振袖一枚の趣があります。

振袖 手描き友禅
振袖の工程 手描き
振袖工程 水洗い
振袖工程の水洗い
振袖工程 金箔
振袖工程の箔置き
振袖工程 金駒刺繍
振袖の金駒刺繍

最期に、題名を付けてなるべくお分かり頂ける様にしましたが、ここまでお読み頂けた事に感謝致します。

本当に現在着物の業界は職人の不足に悩まされています。物を所有しない時代になり、時代が変わって来ています。

先人が作った物もいつか終わりは来ますが、日本人の得意な物作りに対する美意識は、世界一だと私は思っています。

私が着物という素晴らしい日本の衣装に魅せられて呉服の世界に入ったのも、職人が作る事に感動を覚えたからです。

近い将来、無くなると言われている「手描き友禅」少しでも残して後世に伝える事は出来ないのか考える日々です。

ネガティブなお話しでしたが、業界の現状を一人でも多くの方に読んで頂きたいと思い、このコラムを書きました。文章が下手で申し訳ありません。少しでも伝わればと思います。

ご一読、ありがとうございました。

志染庵 店主